チョコレート・アンダーグラウンド by アレックス・シアラー

bootleg


「すべての人にチョコレートを!」というキャッチコピーの本作品、チョコ好き、スイーツ好きの皆さんに強くおすすめします。なお、読み始める前に、手元にチョコを用意することをお忘れなく。チョコがない状態で読み始めると、かなり苦しいです。

舞台は英国(もどき)。この国を支配する健全健康党の指令により、あるときからチョコの製造・販売・摂取が一切禁止された。チョコが大好きな少年、ハントリーとスマッジャーは、ニューススタンドのバビおばさんと一緒にチョコの密造に乗り出す…という壮大な冒険の物語。原題はBootleg(密造)で、禁酒法時代の雰囲気もちょっと下敷きになっているようです。

少年たちの冒険っぷりは、ずっこけ三人組とか、ハリーポッターとか、そのへんを彷彿とさせます。一方、健全健康党が支配する国の姿は、星新一の「白い服の男」に重なります。「白い服の男」の大儀は平和でしたが、健全健康党の大儀はその名の通り健康です。いかに大儀が立派であっても、ごく一部の組織が絶対権力を握るという状態はやはり不健全で危ういものです。大人たちが、まさかこんな大事になるとは思わずに、政治に無関心で選挙に行かなかった結果、健全健康党は暴走し、誰も反抗できない状態に陥ってしまいます。砂糖もチョコも一切存在しない、悪夢のような世界。想像するだに恐ろしい。…とはいえ、説教くさい教訓話というわけではなく、あくまで本筋はドキドキする冒険物語(&チョコ物語)です。

舞台はさりげなく今の時代です。例えば子どもたちが調べ物をする手段がパソコンであったりします。それから、主人公のハントリーは母親と二人暮しなのですが、ヘンに美談にも悲劇にもなってなくて、ごくふつうなファミリーである点もいいです。

さらに、装丁もすばらしい。お菓子の包み紙的なベージュの紙にチョコ色1色で印刷したカバー、チョコ色のつやつやの中表紙、やや黄味がかった紙にチョコ色で文字が印刷された本文。出版社の求龍堂美術書などを多く手がけているようですが、さすがという感じ。

この本は書店の店頭でツレが見かけて、買ってきてくれました。多謝。